日本体育大学 女性アスリート競技力向上プロジェクト

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女性アスリートに
知っておいて欲しいこと

村田由香里さん・全日本選手権6連覇の影に、6年間の無月経。指導者として母として、伝えたいこと

日本体操協会の新体操の強化本部長に就任したことで話題になった、村田由香里さん。オリンピックには選手としてシドニー大会とアテネ大会の2大会に連続で出場し、シドニー大会は団体で5位入賞を果たしました。現在は日本体育大学で准教授を務め、子育て中でもある村田由香里さんに、選手時代の食事や体重管理について伺いました。

村田由香里さん/日本体育大学准教授 元新体操選手

1981年兵庫県出身。小学1年生から新体操を始め、2000年のシドニー五輪では団体5位入賞。2004年アテネ五輪では個人出場し総合18位。2006年には全日本選手権6連覇の偉業を成し遂げる。現在は日本体育大学の新体操部の部長として、日本体操協会新体操強化本部長として後進の育成に力を注いでいる。

「やせた自分」でなければ価値がないと信じていた

二児の母として、子育てと仕事の両立に励む村田さんですが、「赤ちゃんは授からないかもしれない」「授かるとしても時間はかかる」と覚悟していたそうです。なぜなら、村田さんは18歳から24歳までの6年間、無月経だったから。

「いまになって、あのころの自分の食生活がいかに体に悪いことだったかを知って怖くなります」

村田さんの言う「あのころ」とは、兵庫の実家を離れて東京で暮らし始めた18歳のころのこと。実家では、母親が低カロリー・高たんぱくの和食を作り続けてくれていましたが、東京では体重の自己管理をするのは自分だけでした。

「高1で月経が始まり、少しだけふっくらした時期に、シドニー五輪をめざして新しい環境に飛び込みました。先輩たちの中にはハードなダイエットをしている人もいて、『まずはやせないと、ここではついていけない』と思い込んでいました」

1日何時間も続く激しい練習。にもかかわらず、エネルギー源になるものは極力とらず、疲れた日は夕食を食べずに寝てしまうことも。お菓子を食べて食事を控えることもありました。2カ月間で体重は5kg減り、月経が止まり、ひどい貧血に悩むようになりました。病院で鉄剤を注射してもらいながら、練習に打ち込む「極限状態」のなかで、村田さんの心を支えていたのが「私はやせている」という誤った自信でした。

「五輪の団体メンバーに選ばれたけれど、経験も浅く、技術面でも自信がもてなかったとき、コーチに『このくらいの体重がいいね。きれいだね』とほめられたんです。コーチは多分、技術的な面でも助言してくださったはずですが、私は『やせてきれい』という言葉に自分の存在意義を見いだしてしまいました」

本来の目標は五輪で活躍すること。にもかかわらず、いつしか「やせる」ことが一番の目標のようになってしまったのです。

「体重計の数字は、とてもわかりやすい指標です。新体操は採点競技ですから、手足が長く、スラリとした体型の選手が有利なのも事実。けれど、『まず、やせなくちゃ』から始まってしまうと、どんなに栄養がたいせつだと言われても、受け入れる心の余裕を奪われてしまいます」

食事を改善したい!心に浮かんだ母の味

2000年のシドニーオリンピックには、団体競技のメンバーとして出場。

貧血、無月経、フラフラの体で出場したシドニー五輪では、それでも見事5位入賞。けれど、「次のアテネ五輪には個人で出場したい」と考えたとき、体を作り直さなくては勝てないと実感したそうです。

「貧血を治し、しっかり筋肉をつけたほうが強くなれると考えました。そのとき思い浮かんだのは、母がずっと作ってくれていた和食中心のメニューでした」

もともと太りやすい体質ではなかった村田さん。筋肉がつくと体重はふえますが、見た目が悪くなることはありませんでした。しだいに、体重計にのらなくても体重管理ができるようになったそうです。

「試合シーズンはしっかり食べても体重はふえないとか、冬になると3kgくらいふえるけれど夏に向けて戻るとか、1年間のリズムがわかるようになりました」

2004年アテネオリンピックには個人競技で、出場、個人総合18位に。

全日本選手権6連覇という偉業を達成できたことは、体重を自分でコントロールできるようになったことと無関係ではありません。指導者になったいま、「しっかり食べて、しっかり動いて体を絞る」ということのたいせつさを伝えています。

「でも、毎日の食事の中で、何を選べばいいかを知っている子と知らない子の差は大きいと感じます。食事も日々の『練習』の積み重ねです。ジュニアの時期から栄養の知識をつけ、『食べる練習』を重ねていくことで、健康を維持しながら強くなっていけるのではないでしょうか」

二児の母となった村田さん。改めて、母に作ってもらった食事の偉大さを実感しているそうです。

「幼いころからの食事の経験が、ギリギリのところで私の健康を守ってくれました。私もそんなふうに、食事のたいせつさを子どもに伝えていけたらと思います」

また、妊娠中、授乳中は、自分が食べた物が子どもの体や脳を作るという感覚を味わい、今まで以上にしっかり食べることの大切さを感じたといいます。

「女性だから、アスリートだからというわけではありませんが、人間として食することは生きる上で欠かせない重要なことだと思います。正しい知識で、でも知識や結果だけにとらわれず、自分に適した、そして心にゆとりをもてる方法で健康管理・体重管理をできるといいですね」